ウォーミングアップ~理論編~

「アスレティックトレーナーズルーム BASE」代表の須川 雄介(すかわ ゆうすけ)
です。
このブログでは、スポーツ現場で選手のコンディションを総合的にサポートする
”アスレティックトレーナーが、アスリートや運動愛好家、またそのご家族や指導者の方々に役立つ情報を発信していきます!

第10回は、
ウォーミングアップの理論と重要性
について解説します!

目次

大事だとは言われていても…

 12月に入って、だいぶ冷え込んできました。
この時期は特に、運動・スポーツの経験がある人ならこれを必ず一度は言われたことがあるでしょう。

ウォーミングアップをちゃんとしなさい❕

学生時代、アップをちゃんとしていなかったり動きや雰囲気が悪くて怒られた
経験がある方もいるのではないでしょうか?
また
「アップなしでいきなり動いたらケガしました…」
「アップが足りなくて動きが悪かった…」
というのもよく聞く話です。

そのため「ウォーミングアップが大事」という事は何となくわかっていても、

何でウォーミングアップが大事なのか?
何をしなければならないのか?
ちゃんとやらないとどうなるのか?

をきちんと理解して説明できる人はどれくらいいるでしょうか?
これを理解して行うのと、何となくチームで決められたメニューを形だけやるのでは雲泥の差です。
今回はこの根本的な部分をご紹介していこうと思います。

ウォーミングアップの目的と効果

ウォーミングアップの目的は主に2つ

試合・練習でのパフォーマンスを上げる ケガの予防

まあ、当たり前ですよね(笑) 
問題はウォーミングアップによって身体をどういう状態にしたらこの目的が達成できるのか?
ということです。

ウォーミングアップを行うことによる効果は、主に
体温上昇に関連するもの体温上昇とは無関係のもの
に分かれます。

体温上昇に関連する効果
・筋肉や関節が動かしやすくなる
・エネルギーの利用効率が上がる
・神経の反応スピードが上がる

体温上昇とは無関係の効果
・筋肉の血流、活動量増加
・呼吸循環機能の改善
・心理的準備

現場レベルではこれを踏まえて何をするか?で十分ですが、
指導者やトレーナーはより理解を深めましょう。

体温上昇に関連する効果

筋肉や関節が動かしやすくなる

体温が上昇すると、
筋・腱・靭帯といった結合組織の粘性が低下し、伸張性が増加します

例えばスーパーで買ってきた肉は、
冷蔵庫から出した直後はカチカチで手で引っ張ったりしても動きませんが、

しばらく常温で放置すると
柔らかくなって引っ張っても伸び縮みするように
なりますよね?


あんなイメージです。ウォーミングアップによる可動域の改善はこの要素がメインで起こります。

また、体温が一定以上上がると
関節の潤滑油である滑液がしっかり分泌されるようになり、関節内の動きをスムーズにします。
これらの変化と後述する神経系の反応スピードが改善することにより、
筋の収縮速度が上がり、発揮できるパワーが向上する
という効果も見込めます。

エネルギーの利用効率が上がる

酸素とそれを運ぶヘモグロビンの結合が弱くなることにより、
筋や臓器など各組織に酸素を取り込みやすく
なります。
また筋肉内の酵素の活性化することと合わさり、エネルギー産生の効率が向上します。

また
筋や関節などの動きがスムーズになることでエネルギーのロスが減り、使えるエネルギーが増える
ことも重要なポイントです。

神経の反応スピードが上がる

ウォーミングアップの刺激で中枢神経系を興奮させておくことで、
外部刺激に対していつでも反応できる状態を作り、反応スピードを上げる
ことが出来ます。

体温上昇とは無関係の効果

筋肉の血流、活動量増加

血液内のイオンや酸素量の変化に応じた身体の反応として
血管が拡張し、筋肉に流入する血流量が増加します。

また
Post Activation Potentiation (PAP):
事前に目的の動作よりも高い強度の運動を行って筋肉に刺激を入れるとその動作のパフォーマンスが向上する。
が発生します。これなんかはまさしくウォーミングアップのイメージですよね❕

呼吸循環機能の改善

ウォーミングアップを行うと、
酸素摂取量(一度に体内に酸素を取り込める量)が増えます。
詳細はまた別の記事で説明しますが、
人間が筋肉を動かすエネルギー源(ATP)を作る方法には2パターンあり、

有酸素系
酸素を使って脂肪を原料にエネルギー生産
長時間持続できる
少しづつしかエネルギーを作れない

無酸素系
酸素を使わずグリコーゲンを原料にエネルギー生産
一度にたくさんエネルギーを作れる
 水素イオン・乳酸が発生し疲労しやすい

これらは別々に働くわけではなく、運動の時間や強度によってメインとなる方法が変わるわけですが、
酸素を体内に取り込んで有酸素系の働きをしっかり使えると、
疲労しやすい無酸素系の働きを温存することが出来るため
長時間パフォーマンスを維持しやすくなります❕

心理的準備

これはどちらかというと現場での効果だと思いますが、
ウォーミングアップをきちんと行うことで、
気持ちの準備を整えベストパフォーマンスを発揮することの出来る精神状態に
しておかなければなりません。
これはテンションが高ければ(興奮状態)であれば良いというわけではありません。
「ヤーキンス・ドットソンの逆U 字曲線」という考え方があり、

最高のパフォーマンスを発揮するためには
最適な興奮水準があり、
興奮の度合いが高すぎても低すぎてもいけない

というものです。スポーツをやってきた人なら何となく分かりますよね?
(例:試合にダラッと入ってしまい、十分に動けなかった
   大舞台で上がりすぎてしまい、本来のプレーを出来なかった)
これも普段のウォーミングアップから
「自分がどのような取り組み方をするのが一番パフォーマンスを発揮しやすいのか?」
をきちんと把握しておきたいものです。

まとめ

ここまでで、ウォーミングアップの目的と効果についてまとめてきました。
様々な効果がありますが、これらは目的である
試合・練習でのパフォーマンスを上げる ケガの予防
のどちらにも重要なポイントになります。この原理原則を踏まえたうえで、
実際にどのように取り組めば良いのかを次回の記事でさらに深めていきましょう❕


参考:
佐々部孝紀,【第44回】Warm Upの科学~基礎編 | Training Science (sasabekouki.com) ,Training Science~knowlidge is power~
   

David Bishop,「Warm Up I Potential Mechanisms and the Effects of Passive Warm Up on Exercise Performance」,
Sports Med 2003; 33 (6): 439-454

公益財団法人日本スポーツ協会,「公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト⑥ 予防とコンディショニング」

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この記事を書いた人

岩手県出身/
「トップアスリートの当たり前」を「みんなの当たり前」に
スポーツ科学を基に、ケガ予防・コンディション作りのための知識からエクササイズまで発信します❗

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